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<「反日」前のめりの習近平の狙いは何か>(城山英巳 時事通信北京特派員)を読んで
 即決、即実行で強硬な習近平中国政権と優柔不断で内向きなオバマ米政権が同時代に出現したことで、アジア情勢は急激に変化しつつあります。前主席の胡錦濤は米国に対して中国と米国の2大国の対等な関係は求めませんでした。何故ならそれに伴う大国としての国際社会における責任を避けたかったからです。ところが習近平は公然と米国に対等な2国間の関係を求めるのですが、大国としての責任ある態度は一切とろうとしていません。そして強引ともいえるアジアにおける拡張主義で、周辺国に不安と不信感を撒き散らしています。この異様な習近平という人物はかなりしっかり観察する必要があるのでしょう。今回の城山の論説には副題として<「利用される対象」としての日本 「盧溝橋」77年記念式典の「異例さ」>がついています。




 「一魚三吃」(1匹の魚で3回食べる)と題した著名な中国人知識人・呉祚来氏の発言がインターネットで転送されたそうです。つまり「抗日戦争の時、日本を利用して(蒋介石の)民国政府を打倒し、経済開放の際には日本を利用して経済を活性化させ、現在は日本を利用して愛国主義や民族主義を展開し、人民の忠君感情を高めている」ということなのです。過去江沢民が天安門事件後の中国国内の不穏な雰囲気を徹底的な反日教育で鎮めましたが、習近平も中国国内の共産党政権に対する国民の不満を反日という形で鎮めようとしているのです。習近平(盧溝橋事件を記念した記念式典で最高指導者が出席したことはない)は7月5日の記念式典演説で「遺憾なことに、中国による抗日戦争勝利(45年)から70年近くが経った今日、依然として少数の者(安倍のことであろう 筆者)が鉄のように固い歴史事実を無視し、侵略の歴史を否定・美化し、国際的な相互信頼を壊して地域の緊張をつくり出している」と、どうしても日本が集団的自衛権の憲法解釈の変更に踏み込んでいる時期に、日本に釘を刺してきたのでした。



 さらに盧溝橋事件式典に先立つ3日には<歴史文書を収蔵する中央档案館が、中国侵略に関与したとして1956年に軍事裁判に掛けられた日本人戦犯45人の供述書のネット公開を始めたと発表>しているのです。<中央档案館の李明華副館長が3日の記者会見で、日本人戦犯の供述書公開は、盧溝橋事件77年に合わせた措置で、「安倍政権は対外侵略の歴史を美化している」と批判した。それは、「日本人戦犯」が持つ歴史的解釈のうち、「日中友好」より「日本軍国主義の残虐性」を前面に、安倍政権に対する圧力に使う狙いをはっきりさせたのである。>と城山は述べています。




 そして7日付の環球時報は、李宗遠・中国人民抗日戦争記念館副館長の寄稿を掲載して「安倍が大胆・無謀になれるのは、日本社会に次のような認識が存在するからである。第1に、非常に多くの戦後生まれの人たちが、自分たちは(侵略戦争の罪と)無関係だと認識していること。第2に、当時の日本は中国との長期抗戦が敗戦の原因ではなく、米国に負けたと認識していること。第3に今日の経済規模が中国に追い抜かれたことに不満を持っていること。(こうした考えは現在の日本社会において非常に多く支持されているため)侵略戦争を否定・わい曲・美化する安倍のために広大な土壌を提供している。(このような認識は中国にとって危険であるから)歴史認識問題においてわれわれは『歴史カード』を投げ続けなければならない。タイミングよく投げ、毎日のように投げ、毎年投げる必要がある。『歴史カード』を投げ、日本が徹底して侵略戦争の罪を認め、真摯にお詫びするまで。さもなければ中日関係が正しい軌道に沿って発展を続けることはできない」と述べているそうです。中国にとっては公的な論説は全て国家がかかわっていますので上記の主張は習近平政権の主張であると言えます。つまり日本が中国的歴史観に染まらない限りは永遠に中国は日本に歴史問題を投げ続けるということなのです。




 さらに中国側が事実と主張する南京事件(日本軍による中国人虐殺事件)と(朝鮮における)従軍慰安婦の記録を、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記録遺産に登録申請しており、これも中央档案館はじめ各地の档案館が収蔵する歴史資料が基になったそうです。また「南京大虐殺記念館」は犠牲者遺族の登録活動も始めたそうです。この様に中国が主張する「歴史」が「事実」であることをさらに宣伝しているのです。そしてこの宣伝戦略は国内・国際社会向けの双方で大きな効果があると、習指導部が見ているのは間違いないと城山は判断しています。




 そして<この反日キャンペーンは7月7日の盧溝橋事件77年記念で始まったが、共産党指導部は、昨年末の安倍首相の靖国神社参拝を受け、2月末に、9月3日を「抗日戦勝記念日」に、12月13日を南京事件の「国家哀悼日」に新たにそれぞれ制定した。国家の法定記念日に格上げされた、これらの日にも習近平が登場して演説する可能性が高く、大規模な反日キャンペーンは来年9月3日の抗日戦勝70周年記念のピークまで続けられる見通しだ。この間、同盟国のロシアとは来年の70年記念式典を共同で開催し、韓国なども巻き込もうとしている>と城山は指摘しています。この様に習近平の反日キャンペーンは、これが中国としての国家の仕事であるのですから、延々と続いていくのです。



 いま世界は習近平という男の性格を読み解かなければいけない時期に来ていると言えます。習近平は3月末にパリで行った演説で「ナポレオンは『中国は眠れる獅子だ。これが目覚めれば世界は震え上がるだろう』と語ったが、今や、中国という獅子は目覚めたのだ」「もう中国は二度と世界から馬鹿にされない強国になる」「俺たちはもう自分のことは自分で決める。新たな世界秩序は自分たちでつくるんだ」と宣言しています。かなりの自信家であり、野心家であると言えるのでしょう。彼は自身の野心を達成するためにはどうやら毛沢東的独裁を望んでいるようなのです。そのために「汚職防止運動」という政治闘争を始めたというわけなのです。解任された重慶市元トップの薄煕来氏が主導した「唱紅打黒」(革命ソングーを歌い、暴力団や悪い政治家を撲滅する)運動が「重慶モデル」としてもてはやされた当時は、習近平はこの「重慶モデル」を大いに称賛していたのでした。現在の習近平の「汚職防止運動」は薄熙来の「唱紅打黒」を模倣したものと言えます。しかもこの「汚職防止運動」は政府の小物から大物まで広範囲に行われていますので、庶民からは拍手喝さいを浴び非常に評判が良いようです。しかし政府役人(地方、中央政府を含め)からは非常に評判が悪いのです。何故なら中国では政府役人の大多数は汚職や縁故者の便宜を図ることは当たり前だったからです。またその賄賂が薄給の役人の働く原動力にもなっていたのでした。しかし賄賂を習近平政権に禁じられ、さらに汚職摘発においては習近平一派のさじ加減ひとつで決定してしまう事態になってしまい、ほとんどの政府役人は仕事に対して消極的になっているようなのです。しかし習近平政権はそのようなことでは運動の勢いを緩めることはしません。益々「汚職防止運動」を展開し、とうとう<収賄容疑で徐才厚前中央軍事委員会副主席(江沢民派)の党籍剥奪処分と刑事責任追及を決定し、「聖域」だった軍の腐敗に本格追及する決意を誇示した>そうなのです。一部報道ではこのことは人民解放軍首脳を震え上がらせ、習近平に忠誠を誓わせたそうでありますが、現在は習近平の人民解放軍内の基盤確保の正念場にあると言えます。また当ブログで再三取り上げています最高指導部メンバーだった周永康前党中央政法委員会書記(江沢民派)の逮捕も間近との憶測報道も出ていますので、さらに胡錦濤一派追い落としも視野に入れた習近平の政治的独裁が実現するか否かのこれまた正念場です(過去最高指導部メンバーが逮捕されたことはない)。とにかくこのとてつもない中華思想の持ち主で独裁を手に入れようとしている習近平という男の将来に何が待っているのかとても興味がありますね。

by totunaru | 2014-07-16 16:07 | 海外事情
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